第51話〜セイタカシギ
゛足長おじさん゛ほうふつ
●区分/旅鳥(春、秋) ●場所/静内川
野鳥の楽しさは沢山あるが、ちゃちな自分の創造力をはるか
に越える鳥たちとのご対面は、格別。
例えば、ピンク色の細くて長い足と、千枚通しのような細く突
き出たくちばしを持つ、独特のキャラクターのセイタカシギ。こん
な野鳥と出会うと、まるで異次元の世界にタイムスリップした心
地となる。
普通の鳥の2倍はある長い脚は、ウェブスターの童話「足長
おじさん」の世界へと誘ってくれ、私には、あの小説の“立派な
おじさん”のイメージとダブって見えてくる。
18世紀、中国の清王朝。3代の皇帝に仕え、時の有力な大
臣で政治家、軍人でもあった余曽三が、100 種の鳥を写生した
「百鳥図」。この中で、セイタカシギは、水喜鵲(すいきじゃく)名
で登場するが、水を喜ぶという、いかにも中国的表現で面白い。
この鳥と静内川で、うれしい初対面をしたのが、平成元年5
月15日。河口で小魚をついばんだ後、長い足を後ろに揃え、長
く、先のとがった翼でひらりと舞い上がり、夕闇せまる太平洋に
消えていった。
この時、野鳥の世界にも、やっぱり、不思議の国が実在する
と真剣に考えた。
第52話〜コチドリ
迷惑な酒に酔い千鳥足
●区分/夏鳥(4〜10月) ●場所/静内川
コチドリは、チドリの仲間ではあるが、旅鳥でなくて夏鳥。日
本産チドリ類の中では最小。河川の河原で、普通に見られる、
ポピュラーな野鳥(チドリ)。
酒に酔った人など、ふらふら歩く様をよく“千鳥足”と称する。
しかし、これは、チドリたちにとっていい迷惑だ。ならば、一度、
コチドリの歩く様をご覧んいただきたい。
“千鳥足”か、“韋駄天(いだてん)”かの判定を下すのに、
時間はいらない。それ程までの駿足ぶりだから“千鳥足”とい
うのは、やっぱりチドリたちに対して失礼な話なのである。
チドリに人権ならぬ鳥権があるのであれば、すかさず、裁判
沙汰になるであろうと考えるのは、下世話であろうか。
体長約15a、雌雄同色。 地上に小さなくぼみを作り、小石
を集め、巣を作る。私は、二度ほど、この巣と卵を見たことが
ある。巣は簡素であるが、卵は実に良くできていて、側で見
ても卵か小石かの判断がつかぬほどであった。
親鳥が抱卵中、巣を守るため擬傷(傷付いたふりをする)と
いうパフォーマンスでも知られている。
第53話〜コサギ
野鳥界のダンシング女王
●区分/夏鳥(4〜10月) ●場所/静内川
全身にまとった純白のドレス、頭の後ろにはオシャレな白い
羽飾り、口と足はシックに黒で見事にコーディネート。
今日は、街が始まって以来のスペシャルイベント。ダンス上
手が一堂に会しての「第1回静内川野鳥連ダンス大会」。
オープニングは、前ぶれもなく突然始まった。片足を軸に、ポ
ップ、ステップ、ジャンプ。さらにサイド・ステップトと華麗に舞踏
は続く。極め付けは、片足を前に出してのツイスト。良く見ると
片足を巧みに、小刻みに震わしている。
…ん、何のこと。いや、今日の主役、コサギのこと。静内川
での餌捕りの一コマ。正確に言うと、コサギが餌となる小魚を、
前足を前に出し、追い出しの最中。つまり、コサギが魚を撮る
際の光景なのであるが、どういう訳か、面白しろおかし、愉快
な動作の連続技。
コサギは、静内というより、北海道では、まれにしか見ること
ができないが、蝶のような舞いを見せられると、忘れろと言わ
れても、忘れられない。
ところであなた「野鳥が舞うなんて信じられる」。信じられな
い、そうでしょうね…。
第54話〜カワラヒワ
繁殖期以外は大群で生活
●区分/夏鳥(4〜10月) ●場所/町内全域
「キリキリコロコロ」と可愛い声、飛ぶと鮮やかな黄色い羽。
カワラヒワは、平地や低山の林、草原、海岸と町内どこにでも
生息する。
今は、繁殖期。嬉しいことに、私の住む市街地の住宅街に
も、近くの公園にでも巣を作ったのか、仲良くアベックで飛ん
でいく姿をよく見る。繁殖期以外は、数十羽から数百羽の大
群で生活する。 カワラヒワに限らず、野鳥は、群れて生活す
る種類が多い。
何気なく群れているように見えるが、これには、幾つかの
理由がある。体が小さな鳥は、ワシ・タカ類などの天敵も多い。
だから、個体ではなく集団であれば、危険も回避できやすい。
さらに、もう一つ、集団を組むメリット。無数の目で餌を探す
ことができる、つまり、餌を見つける確率は高くなる。
産卵期は3〜7月、卵数は3〜5個、抱卵日数は11〜13日、
巣立ちまでの日数は14日位。九州以北で繁殖し、北海道で
は夏鳥であるが、本州では留鳥となる。
アトリ科特有の太いくちばしで、ヒマワリの実など、草や木
の実を食する。
第55話〜ト ビ
優しそうだが猛禽類
●区分/留鳥(通年) ●場所/海岸、静内川
何時だったか、昔の歌謡曲に『♪トンビがくるりと輪を描いて
ホーイーノホイ』という歌があった。
トビの習性を見事にいいあてた歌詞だが、残念なことにこの
歌には、間違いが一つある。トンビというのは正しい名ではな
い。“トビ”というのが正解。が、どういう訳か、トンビの名前で呼
ばれることが多い。
ピーヒョロロ』と優しい声で鳴き、のんびりと空を滑空、旋回
する。
しかし、こう見えても、れっきとしたタカ類でオジロワシと同じ
猛禽類。その証拠に、食べ物を探すのに重要な視力は、人間
の10倍で、ごく小さな物まで見分けが可能の優れもの。海岸、
河口、湖沼で生息し、静内では入船の静内漁港付近に数が
多い。
ネズミ、ヘビなど、生きているものも食べるが、その多くは動
物の死体や魚の残骸である。よくオジロワシ、オオワシに間違
えられる。
かく言う私も初心者の頃は、見分けがつかず、よく間違えた。
得意になって写真を撮っていたが、ある人にこれはトビと指
摘された時ほど、ショックだったことはない。
それが、野鳥写真のスタートでもあった。