第56話〜ハヤブサ

 昔から速い鳥の代名詞


●区分/留鳥(通年) ●場所/町内全域
  戦後生まれの私でも、ハヤブサと聞けば「加藤隼戦闘隊」と
いう言葉くらい知っている。
  第二次世界大戦中、日本が誇った高速性能の戦闘機“はや
ぶさ”を編成しての航空隊の名称である。
  そのイメージどおり、稲妻のごとき飛翔、果敢な狩り、空気を
切り裂いて飛ぶハヤブサは速く、豪快だ。飛行中の鳥を発見す
ると、高空から翼をすぼめて急降下し、鋭い爪でけ殺す。
  俊敏、勇敢に飛ぶこの時の速度は、時速350 〜400`にも
達し、鳥類中、最も速いといわれる。この特徴を生かし、日本
やヨーロッパでは古くから鷹狩り用に使われ、各地に幾多の鷹
匠とハヤブサとの逸話と伝説が残っている。
  北海道では、室蘭の地球岬で繁殖し、全国的に有名になり、
今や、まちの顔にまでなった。嬉しいのは、その生態を室蘭在
住のカメラマン・熊谷勝氏が、見事なカメラワークによリ記録、
感動の写真集を出版したこと。
  9年間にわたり彼らの全てを、熱いまなざしで見守り、生態
を観察した。それは、野鳥の写真というより、自分の分身を記
録した、家族の成長の記録であった。
 

第57話〜ムクドリ

 秋どこにでも大群で出現


●区分/夏鳥(4〜10月) ●場所/町内全域(山野)
  まだ、残暑厳しき頃に札幌へ出張した時のこと。
  もう一軒と外に出たが、辺りはまだ明るい。場所は南5条、
歓楽街ススキノのど真ん中。
  ふと見ると、なにやら鳥の大群がビルの屋上、大きなネオ
ンサインに群がっている。盛り場の酔客と野鳥とはやはりミ
スマッチ。当たり前の事ながら、誰一人として、気付く様子も
ない。 
  大群の正体は、すぐには分からなかったが「キュル、キュル
リ」の鳴き声で、ムクドリとすぐに判明した。静内では春先から、
姿を見せてくれ、アカゲラが一度使った巣や天然の木の洞に
巣を作る。
  秋には、ご多分にもれず、写真のように鉄塔や送電線に大
群を形成する。一家族の群れであったものが、次第に大きくな
り、数千羽から数万羽にもなる。騒がしい声と習性、美人とは
いえない姿。ムクドリには悪いが、私は、今だにこの鳥を好き
になれない。
  しかし、生活力旺盛なムクドリは、稲の切り株に潜む虫など、
数多くの害虫を食べ、目の見えないところで貢献する。
  自戒をこめて、「野鳥は見てくればかりが、全てではないの
だ?…」。
 
   
第58話〜キジバト

 東京のど真ん中でも生息


●区分/夏鳥(4〜10月)●場所/町内全域(森林) 
  朝靄けむる春の朝。辺りに漂う清澄な空気とみずみずしい
ばかりの朝露。
  芽吹き、息する植物たち。すがすがしい、せせらぎのシンフ
ォニーと風のささやき。「デデッポーポー、デデッポッポー」。静
寂さをやぶり、野鳥の声が谷間にこだまする。
  生きている…。植物も、野鳥も、そして私たち人間も、生き
ている。みんな、自然の恵みを受けて生きている。山間での、
キジバトの鳴き声を聞く度に、いつも、心が洗われ、気持ちが
素直になる。
  が、しかし、静内では大自然の奥深く聞こえるキジバトの声
も、都会では様子が一変する。昨今、都市化が進み、どんどん
少なくなる森や緑。もともとは、山里の野鳥たちも、環境が変
わり、例え、都会であっても生息せざるを得なくなっている。
  そんな鳥たちの代表がキジバト。東京のど真ん中、街路樹
に巣を造り、子を育てる姿は、すっかりお馴染み。
  汚い空気、カラスの襲撃など、まさに、悪戦苦闘の毎日。
東京のキジバト君、「悪条件にめげず、頑張ってください!」。


第59話〜コムクドリ


 サクランボ大好き鳥


●区分/夏鳥(4〜10月) ●場所/町内全域(山野) 
  今やすっかり有名となった、日本一の桜並木「二十間道路」
は、寒い日が続いたせいで、例年より遅い5月11日の開花とな
った。
  ようやく訪れた北国の春ではあるが、花の命は短い。 桜の
花は、サッと咲き、パァット散ってしまう。いさぎよいと言いたい
が、正直言って、もったいない。 
  この桜並木が多くの動物と関わりを持っていることは、意外
と知られていない。エゾリスが、ヨーロッパトウヒ(松)などの実
を食べれば、アカゲラなどの野鳥たちが、桜の木々に巣を作り、
繁殖をする。
  コアカゲラも、二十間道路には欠かせない顔の一つ。6月中
旬、満開の後、たわわに実ったサクランボを食する。なにせ、
約1万本の桜並木から、さらに無数に枝別れ結実したサクラン
ボ。そう簡単には、なくならないと考えるが、これまた、見事な
までに食べ尽くしてしまう。
  地方によっては、桜の木に集まることから、“さくら鳥”の名
で呼ばれるのもよく分かる。
  町の顔「二十間道路」桜並木の恩恵をこうむっているのは、
人だけでない。多くの植物、動物。みんながお世話になってい
る。

  
第60話〜ツツドリ

 子育ては゛他人゛まかせ


●区分/夏鳥(4〜10月) ●場所/町内全域(森林) 
  シリーズ最後のトリを飾る鳥は、ホトトギス科。ホトトギス科と
は、カッコウ、ツツドリ、ホトトギス、ジュウイチの4種。
  この野鳥たち、実は、とんでもない性格の持ち主。自分で巣
を作る、卵を温める、雛を育てる、といった親の仕事を一切しな
い。卵を生むまでは自分でやるが、後はまったく他人まかせ。
卵を他に託すので、この習性を“託卵”という。 
  子育てを担当するのは、モズ、ホオジロ、アオジ、ノビタキと
いった
野鳥。いずれも同じ食性をもち、抱卵期間も似通っている。手の
悪いことに代りの親たちは、みんなツツドリたちより体が小さい。
大口をあけたホトトギス科の幼鳥が、雛より数倍もきゃしゃな親
(モズ等)から、せっせと運んだ餌を食べさせてもらう。
  野鳥を語るには欠かせない、あのカッコウの美声。だが、無
責任と放任主義。笑えないというかこの現実。鳥たちにも、生き
ていくための様々なドラマがある。
  人生も一筋縄でいかないが、野鳥にも不義理もあれば、虚
構の世界も実在する。
  でも“生きる”というキーワードは、どんな世界も普遍。みんな
“一生懸命”生きている。

(完)