第46話〜ムナグロ 

 3千`をノンストップで


●区分/旅鳥(春、秋) ●場所/静内川
  世界には、約9,000 種の鳥類が生息する。
  日本国内で記録されているのは500 種、そのうち北海道は
250 種、静内では約180 種となっている。
  そんな野鳥たちの中で、私が最も興味をもち、面白いと思う
のは文句なしにシギ・チドリ類。理由は、魅力あるパフォーマ
ンス、長距離を渡るという習性、スマートなフォルムなど、数多
くの魅力を持つことに他ならない。
  なかでも、地球規模の広大なスケールで、渡りをする習性
に興味をそそられる。
 例えば、このムナグロ。アラスカからハワイまでの3,000 `
余を、なん とノンストップで飛び続ける。時速70`としてもまる
二日、飲まず食わずで、ひたすら翼を動かし、飛び続けるとい
うからすごい。
  極地のツンドラで繁殖、東南アジア、オーストラリアで越冬
し、日本にはその途中に立ち寄る。体長約25aの小さな体の
どこにそんなパワーが秘められているのか、不思議でならない。
  今日から7回連載するシギ・チドリ類。
  なぜ渡りをするのか、そしてルートは、食べ物など、野鳥た
ちのもつ知られざる世界を紹介する。
  

第47話〜ダイゼン 

 子育てに豊富な食料求め


●区分/旅鳥(春、秋) ●場所/静内川
  シギ・チドリ類が、長距離の“渡り”をすることは、前に触れた。
では、なぜ渡るのであろうか。
 <秋>ほとんどのシギ・チドリ類は、北極圏で繁殖するが、冬
     は、雪と氷に閉ざされた世界となる。寒さも厳しく、餌も
     なく、とうてい生息できる環境ではなくなり、現地での越
     冬は不可能となるため、南方へ渡る。
 <春>越冬地の東南アジアなどで、生息できないこともないが、
      南方にも、そこに生息している野鳥たちも多く、限られ
      た食べ物をめぐって争いとなる。ましてや繁殖期となる
      と、自分だけでなく、子育て用の食べ物が必要となる。
  食料が豊富にあり、競合する相手も少なくなる北方で生息す
る方が、渡りの危険はあっても、条件がよいのである。ダイゼン
は、春の方が立ち寄る確立が高く、5月中〜下旬、運が良けれ
ば、静内川でこの遠来のお客様と対面することができる。
  ところで、国内産鳥類のうち、留鳥は26%、夏鳥は14%、冬
鳥は19%、シギ・チドリの旅鳥は10%、迷鳥が31%となってい
る。
  つまり、日本で生息する野鳥のうち、なんと7割が渡り鳥なの
である。
 
 
第48話〜アオアシシギ 

 体内時計を頼りに゛渡り゛


●区分/旅鳥(春、秋) ●場所/静内川
  野鳥は、何千`もの渡りをするが、迷わないで目的地に着く
ことが出来る。
  その秘密は、どこにあるのか。まだ、不透明の部分もあるが、
野鳥は体内時計を持っており、それを頼りに渡りをすることがこ
れまでの研究で分かっている。
  体内時計のベースとなっているのは、昼間は太陽の位置、
夜間は星座の位置。 さらに、地磁気や風向きも利用し、渡り
の方向を補正するといわれている。
  人間は、標識や機械がなければ、どこへでも移動が出来な
いが、数千`の道程を間違わずに移動出来るというから、お見
事である。渡りの途中に台風や嵐、なんらかの原因により、行
くべき方向を間違うと迷い鳥となる。
  しかし、これだけの長距離を飛ぶのだから、たまに迷っても、
なんら不思議ではない。静内川は、このシギ・チドリ類が、けし
て多い方ではないが、平成3年は、当たり年だった。
  このアオアシシギが私の観察では、9月8日〜14日静内川
に滞在したほか、ソリハシシギ、アカアシシギ、キアシシギなど、
次々とシギたちが顔を見せてくれ、大喜びしたものである。
 
 
第49話〜アカアシシギ 

 日本は渡り鳥の中継地 


●区分/旅鳥(春、秋) ●場所/静内川
  地球規模での渡りをするシギたちにとって、日本のような北
半球の中緯度は、ちょうど中継点にあたる。
 <春>南半球で越冬したシギは、北半球での繁殖のため、
     北へ渡る途中、日本で一休みする。
 <秋>北半球で繁殖を終えたシギは、越冬のため、暖かい
     南半球へ渡っていく途中、日本を通過する。
 理屈からいうと、繁殖の帰り道である秋が、家族が増えた分
だけ、個体数も多いはずであるが、一概にはそう言えない。こ
れは北上の道と、南下の道が異なるからで、むしろ、往路、復
路とも同じという種類は少ない。
  オオソリハシシギのように秋に多く見られるもの、キアシシギ
のように春・秋とも姿を見せるもの、チュウシャクシギのように、
春の方が多いものと種類により異なってくる。
  このアカアシシギの写真は、平成3年9月19日、静内川河口
で撮影した。「あきあじ祭り」の準備で川を整地したが、それが
原因で出来た急造の干潟にやってきた。
  なにを食しているのか分からなかったが、水中でせわしく動
き回っていた。足が赤いからアカアシシギという。


第50話〜キアシシギ 

 流線型フォームと長い翼


●区分/旅鳥(春、秋) ●場所/静内川
  シギの連載も5回目で、それもアカアシシギ、アオアシシギ、
キアシシギと続けば、赤・青・黄と揃い、なにやら交通信号機み
たいになった。
  旅鳥という性格上、馴染みはないので、知られていないが、
種類は多く、世界中で約80種、国内で確認された数は、50種
以上になる。
  共通しているのは、流線形のフォルムと長距離飛行に適した
長い翼。「ピョー、ピョー」「クリー」などと鳴く声は、透き通るよう
な声質で気品があり、なんとなく王宮の貴婦人たちといったイ
メージがぴったり。
  ところで、シギたちは何を食しているのだろうか。 種類にも
よるが、ゴカイ、カニ、巻貝、二枚貝、ミミズ、昆虫(バッタ、アリ、
カエル)、魚などが主な餌。それを食するくちばしも、長い・短い、
太い・細い、真直ぐ・反るといった具合に形状も様々。
  しかし、何気なく異なったくちばしの形状の一つひとつが、重
要な意味を持つ。多種類が、同じ干潟で一緒に群れ集まり、
餌を食しても喧嘩にならず、それぞれが、生きていけるからだ。
  自然界の摂理が、こんなところにも、きちんと生きている。