静内のハクチョウ概要


 冬でも結氷しない静内川は、北海道の河川では最大のハクチョウ越冬地


 多くのオオハクチョウが集結する静内川白鳥広場


 オオハクチョウは、やはり静内でもアイドル的存在
   

1.自然(地勢)
 日高支庁は、北海道の中央西南部に位置し、東北は日高山脈によって十勝、上川両支庁管内に
接し、西は沙流川以西の丘陵地を境として胆振支庁管内と接している。南は178qにわたり太平
洋に面し、河川流域の平坦地を除き、丘陵地の多い地域である。面積は約4,812kuで、全道面
積の5.8%を占め、和歌山県とほぼ同じ大きさ。
  ちなみに静内町は、801.49kuと香川県の面積1,859kuの約半分であり、北海道の各支庁
(14支庁)単位面積は、本州各県の平均的面積に相当する。 
 北緯41度55分〜43度00分。東経141度58分〜143度20分に位置し、この内、静内は北緯
42度16分〜42度40分。東経142度20分〜142度46分に位置する。(国土地理院調)
 地形は、大部分を日高山脈とその前山によって占められ、丘陵地を櫛歯状に横断し、太平洋に注ぐ
河川流域に谷底平野が見られる。
 河川は、一級河川は沙流川(日高町)のみで、二級河川は静内川(新ひだか町静内)、日高門別川
(日高町)、新冠川(新冠町)、三石川(新ひだか町三石)、元浦川(浦河町)、日高幌別川(浦河町)、
様似川(様似町)など22河川、総河川数は600余を数える。
 氷河期の浸蝕作用により、形成された日高山脈に源を発しているため、急流河川が多く、水量も豊
富でその一部は水力発電にも有効活用され、静内川水系だけでも5つの発電用ダムがある。
 海岸線は、総延長178.4qを有し、北海道全体の6.4%を占め、昆布をはじめ、定着制の魚類、
水産動物資源が豊かである。中でも、えりも岬沖合にはえりも堆があり、寒暖両水系交錯し、低息性
魚類の好漁場として知られる。 また、日高管内は、北海道中央部で最も日高造山活動の影響を受
けた地域で、いくつかの地質構造帯が、ほぼ山脈に平行し帯状に配列しており、沿岸部では海岸線
に平行な地質構造をなしている。
 地質は、河川流域の狭少な冲積地域を除き、火山岩と泥岩、重粘土等の特殊土壌が全体耕地面
積の76%を占め、様似町、浦河町、えりも町を除いては、樽前系、有珠系火山灰が見られ、沙流郡
(日高町、平取町)では、火山灰が1mにも及ぶ厚く層をなし、地味は薄い所が多い。
 山岳は、幌尻岳(2,052m)を主峰とする日高山脈をなし、1,500m以上の山々が20余そびえ
立っており、秘境的魅力とも重なり多くのアルピニストの憧れの的となっている。


2.気  象 
 海洋性気候のため、夏は涼しく、最高でも30度を越えることはまれ。逆に冬は暖かく、零下10度
を下回ることはあまりない。一年を通じて温暖であるため、北海道の伊豆と例えられるほど、穏やか
な気象が特徴である。年間を通して降雨量も少なく、冬の降雪量は、道内では極めて少ない地域に
属する。

《日高地方の四季》
*春〜北海道の南西に位置するため、春の訪れが早く、4月に入ると移動性高気圧におおわれ、 好
     天の日が多いが、4月後半に入ると移動性高気圧の南よりの高温、多湿な空気のため霧が
     発生しやすく、海岸地方を中心に霧の日が多い。
*夏〜内陸を除き、海岸地方では8月上旬まで霧が多い。降雨量は、梅雨前線や低気圧の影響を
     受け年間で一番多く、山間部やえりも方面ではとくに多い。
     海岸部では涼しい日が続くが、内陸に入ると海の影響が少なく気温は上昇する。
*秋〜太平洋高気圧が次第に弱まり、低気圧が通過するようになると、急に秋らしくなる。霧が少な
      く、日高地方で最も良い季節となる。しかし、雷が多く発生し、短時間強雨をもたらすこともあ
     る。
*冬〜雪は少ないが、北海道の南を通過する低気圧により、えりも岬方面が大雪になることが多い。
     気温は海岸地方では下がることはなく、零下10度を下回ることはあまりない。しかし、日高町
     や平取町などの内陸に入ると内陸性の高地気候のため、明け方はかなり冷え込む。


3.日高地方のハクチョウ
(1) 生息(越冬)地
 日高管内でのハクチョウの越冬地は、新冠川(新冠町)静内川(静内町)三石川(三石町)、元浦川
(浦河町)、日高幌別川(浦河町)、様似川(様似町)えりも西海岸(えりも町)。この内、えりも西海岸
以外は、河川である。
 管内9町の内、日高町、平取町、門別町を除く6町で越冬し、生息地する地域は、全て太平洋沿岸
部に限られている。これは、日高には天然の大きな湖や沼はなく、生息可能な河川または、海岸が
太平洋岸に位置していることによる。 河川での生息地は、皆、拓けた河口に一局集中されている。
この事は、河川の結氷と降雪により、人工の給餌が市街地(河口)に位置している事と関係するもの
と考えられる。
 えりも西海岸は、歌別から油駒間の約6q間、海岸線上8か所に分散しており、多いところでは、一
か所に40〜50羽生息しているところもあり、岸壁と海の間にいる事が多い。数の変動はあるが、近
年は、毎年渡ってきている。

(2) 生息(越冬)数
 日高支庁管内で、最も生息数が多いのが静内川で、次に多いのがえりも西海岸である。静内川で
の数が多いのは、結氷しないことと、給餌による餌が豊富であることの生息条件が整っていることに
他ならない。
 また、えりも西海岸には、毎年、多くのハクチョウが越冬している。
(別表、日高のハクチョウ生息数参照)

(3) 環 境
 河川の内、冬期間に結氷しないのは静内川だけで、他の河川は、12月〜2月中旬頃までの厳寒
期、大方は完全結氷してしまう。静内川も、数十年前は結氷していたが、近年の地球温暖化現象が
原因か、ここ10年位は河川流域の全てが凍ることはない。静内川だけが結氷しないのは、伏流水が
河口付近に沸くために、水温が下がらないからとされている。
 この特徴は、越冬する他の冬鳥たちも恩恵を受けており、中でも、オジロワシ、オオワシのワシ類
はサケなどの魚類が主食であり、河川が結氷しないため、餌の確保が可能となり、これまでも10数
羽が静内川河口で越冬していた。
 静内川上流には、水産庁のサケ・マスふ化場があり、早くからふ化事業が行われ、河口約1q地
点の捕獲場で、毎年、9月から捕獲が行われ、春には稚魚が放流されていたが、平成4年秋から、
人工ふ化に加え自然産卵の比率を高める事を目的に、捕獲場を河口1q地点から8q上流地点に
移設させた。
 これにより、サケの生息する面積が大幅に増加。1月頃まで狙上するサケや産卵後のサケ(ほっち
ゃれ)の数が飛躍的に増す事となり、餌が増えた分だけ、ワシ・タカ類も増え、これまで10数羽であ
ったものが、平成4年10月以降は40〜50羽までに増えた。
 また、幼鳥が大部分ではあるが、これまでオジロワシしか見ることができなかったものが、オジロ
とオオワシとが半数と、実質的にオオワシの生息数が増加することとなった。
 えりも西海岸のハクチョウの越冬については、なぜ、海岸で生息するのかは正確には分かってい
ない。しかし、えりも地区には大きな河川がなく、ハクチョウの生息に適している水辺がないことと、
必ずその海岸付近には大小の河川があり、真水が流れ込んでいるという事が分かっている。
 平成2年の秋頃から、静内川及び新冠川でハクチョウの嘴や足に、釣り針、重り、ハリスなどの魚
釣用の仕掛けが絡み付くケースが多くなった。
 両河川の河口とも、9〜11月はサケ・マス捕獲禁漁期間となるが、それ以外の期間については、周
年を通じてアカハラ(ウグイ)が多く生息し、絶好のポイントとなっているため、町内外からの釣り人が
絶えない。しかし、放置した釣り糸などによるハクチョウの受難も多く、その都度、関係者や行政(鳥獣
保護)などで対応している。

(4) 餌(食物)
 日高管内の河川中、ハクチョウたちが最も好みそうな沼に近い状態は新冠川で、水草も豊富。しか
し、マコモ類の生えている川はないが、水質がきれいであるため、川岸や洲上には植物が豊富であり、
川底には水草(藻)も多く、ハクチョウやカモ類がよく食している。
 給餌が行われているのは、静内川、日高幌別川、様似川の3河川で、定期的に一定数が供給され、
行政からの支援体制が確立されているのも、静内川だけである。
 静内川での給餌は、毛利守氏が定期的に一日数回行っている。餌の種類は、当初はパンのみで
あったが、トウモロコシなど、町民から提供される餌も年々増え、今では毎年、トウモロコシ等を供給
してくれる農家もある。その他、えん麦や野菜くずなども提供されている。また、静内川でのハクチョ
ウの知名度、人気はアメリカコハクチョウの渡来などの話題もあり、増す一方で、多くの町民が家族
連れやお年寄りを中心にパンなどを与えており、その数は、一日に数百人を下らない。
 静内川での生息数が年々増加しているのは、この給餌の量が絶えることなく、しかも、一定量が供
給されていることに比例していると考えられる。
 唯一、海岸の生息地域である、えりも西海岸では首を海中に突っ込み、海草を食している。海草の
種類については、岩海苔と考えられる。

(5) 一日の行動
 瓢湖、伊豆沼、中海など、本州の主なハクチョウ越冬地では、夜間は湖などの水辺を寝ぐらとし、
夜明けと共に近辺の水田等へ移動し、夕方にまた、寝ぐらに戻るといった行動をとることが普通である。
 しかし、日高地方では降雪のため、陸上から直接、落ち穂などの餌を採ることが難しく、基幹産業で
ある農業が競走馬生産であり、米の耕地面積が少ないなどの理由からか、ハクチョウが水田で餌を食
するといった光景は、少なくても、静内町内で確認された事がなかったが、平成7年頃より神森地区や
田原地区での水田で採食光景が見られるようになり、特に融雪となる2月〜3月には数十羽単位の集
団での行動が目立つ。
 また、静内川と新冠川(距離約7q)、日高幌別川と様似川(距離約8q)については、河川の結氷が
ないなど、生息条件が整っている期間中は、ファミリー単位で、ひんぱんに互いの川を往来をしている。

(6) 種 別
 日高地方では、ハクチョウは他の北海道の越冬地と同じく、オオハクチョウのことを意味する。コハク
チョウは、年間で数羽しか確認されず、コブハクチョウについては、確認されたことはない。
 また、アメリカコハクチョウは、昭和63年1月から平成10年3月までの11年間、1羽が静内川などを
拠点として、管内の各河川で越冬したが、残念ながら、平成10年秋以降は確認されていない。
 (別項、アメリカコハクチョウ参照)

(7) 渡 り
 管内で越冬数が最も多い静内川では、過去のデータから初認の標準日を10月25日とし、春の渡り
は、3月下旬を北帰行の基準日としている。
 ルートについては2コースあり、一つは太平洋沿岸コース。もう一つは、日高山脈を横断するコースで
ある。
 この内、太平洋沿岸コースは、秋の渡りに多く見れられ、えりも岬方面とウトナイ湖方面の2通りがあ
るが、いづれの場合も静内川河口から進入し、数回上空を旋回の後、水面に降りるといったパターンが
多い。
 また、3月になると海岸線(太平洋)の海上を、北方向に渡って行く群れや渡りの途中、海岸の砂浜
で休んでいるハクチョウも時々見かける。種別は渡りのコースからして、コハクチョウと思われる。
 反対に春の北帰行は、日高山脈を横断するケースが秋に比較し多くなる。数年前から、日高支庁と
隣り合わせの十勝支庁管内十勝川(音更町など)に、2月中旬頃からオオハクチョウが渡りの中継点
として集結する数が多くなったが、静内川と十勝川とは、道東への渡りコースの直線上にあり、距離的
には、ほぼ中間に位置する。
 渡る時間については、夜間もしくは、早朝に渡る場合が多い。(町内では夜間と早朝、家の上を飛ん
で行くハクチョウの鳴き声を聞くという世帯が多い) えりも町東洋(油駒)地区では、例年3月20日か
ら26日までの一週間、ハクチョウ(オオハクかコハクかは不明)の群れがおおよそ10〜20羽単位で、
7〜8時頃の早朝、上空を通過するのが観察されている。(陸路コース)一方、1986年頃から、新しい
パターンが見られるようになった。場所は、静内川から約60q離れた平取町内の沙流川中流付近で、
例年、3月20日頃になるとハクチョウが、水田で落ち穂などを食する。
 一日に確認できる数は約200羽で、数日間位は滞在しているようである。種別は、オオハクが20%、
コハクが80%とコハクチョウが多い。
 滞在期間は、おおよそ3月中旬からの2週間程度で、時期については、その年の降雪量に関係する
ようで、残雪が残っているうちは、当然、餌を食することができないため、上空を通過するのであろうが
降下せず、雪解けを待ってハクチョウたちも滞在する。
 これらのハクチョウたちの寝ぐらは、飛来して来る方向から推測すると、水田側の沙流川であったり、
ウトナイ湖であったりするようで、基本的に本州地区の生態と同一とする。

(8) 静内川のハクチョウ
@昭和62年以降の主な出来事(1994年まで)
年   月 事                     項
1987年11月
(昭和62年)
アメリカコハクチョウが、日高に(日高幌別川)に初めて 渡来、越冬。
1988年11月 アメコ、静内川に初めて渡来、越冬。

1989年3月
(平成元年)11月
12月


12月
アメコ、北帰行。
アメコ、渡来。
静内川右岸に河川環境整備事業の一環として、1億6,0 00万円をかけ、ハクチョウの生息環境に配慮した延長4 00mの白鳥ゾーンが完成する。観察など、ハクチョウと のふれあいが一段と深まる。(施行主/室蘭土木現業所)
アメコの疑交尾を目撃。
1990年3月
11月
11月
アメコ、北帰行。
アメコ、初めてコハクとペアで静内川に渡来する。残念な がら越冬はせず。
オオハクの幼鳥の嘴に釣針が絡んでいるのを発見。
1991年3月
10月
アメコ、コハクのペアが再び、渡来。北帰行。
アメコが単独で渡来し、残念ながらファミリーでの期待は ならず。越冬せず。
1992年1月
3月
10月
オオハクの嘴や足に釣針が絡むケースが多い。
アメコ、北帰行。(4月まで新冠川に滞在)
アメコが単独で渡来。以後、コハクと一緒に越冬。
1993年3月
11月
アメコ、コハク、北帰行。
アメコと同一行動のコハクが渡来。残念ながら、アメコの 姿は、確認されず。
1994年3月 アメコ、コハク、そして初めて幼鳥と3羽で姿を見せる。8日、16日の2日間しか静内川にいなかったが、幼鳥の確認は、実に嬉しい出来事であった。無事に育って、これからも勇姿を見せてほしいもの。
10月 アメコ、コハクのペアを発見するも、幼鳥は確認できず。渡りの途中でアクシデントでもあったか、残念至極。アメコが右足を引きづっており、少々、不安。
A生息(越冬)数等(資料提供〜毛利 守氏)
    年    初 渡 来  飛 去 日 最大数(月/日)
 1984〜85 11月20日 3月 5日  60(3/ 5)
 1985〜86 10月22日 3月11日  64(3/11)
 1986〜87 10月19日 3月28日  70(1/20)
 1987〜88 10月24日 4月14日  93(3/17)
 1988〜89 10月23日 3月27日  85(2/22)
 1989〜90 11月 3日 3月21日 106(1/29)
 1990〜91 10月25日 5月 6日 120(1/ 6)
 1991〜92 10月16日 3月30日 174(3/10)
 1992〜93 10月17日 4月 5日 152(1/17)

 なお、生息数であるが、日本野鳥の会が1991年1月に実施した「ガン・カモ類全国一斉調査」に
よるハクチョウの生息数によると、静内川は65羽で全国で70位。北海道では8位で、その内、河川
の部では1位となっている。

B地 勢
 静内川は、日高山脈のペテガリ岳、イドンナップ岳を水源とし、山稜はカール現象の残る山も多く、
鋭い切り込みで沢に落ち、断崖が発達、多くの瀑布も多い。風雨氷雪の浸蝕作用を受け、流出した
大量の砂礫は、日高の海岸や海を埋め立てていった。
 山地の地質は、花崗岩が噴出してその骨髄をなし、古生層は花崗岩の周縁を包んで露出している。
脊梁部を中心とする地帯は、いろいろな変成岩から成り立っている。化石の山として、また、古い地
質概念を揺り動かす山として、多くの地質学者の注目を集めている。
 静内川の流域面積は、683.4ku、流路延長69.9qで、日高地方では沙流川に次ぐ代表的な
河川である。流路の約7割(約50q)は、国有林内の山岳地帯を蛇行しており、流域の林相は上流
部において天然生林がほとんどを占め、大部分は復層林状をなしているが、中流部以下は岩石が露
出し、崩壊地が見られる。
 静内川が第一支流シュンベツ川と合流する地点の双川から、農屋、御園地区にかけては扇状地で
ある。この地区下流の川幅は、約3qに及ぶ氾濫原で、洪水の度ごとに流路の移動がくり返された。
 双川から河口までの19q余に及ぶ両岸の平地、丘陵地は、耕地と牧場が大部分を占め、下流端
qは静内町の市街地である。

C環 境
 静内川は昭和40年から、鳥獣保護区に指定されており、鳥類の捕獲等は禁止されている。また、
隣り合わせに、同じく鳥獣保護区となっている真歌地区があり、保健保安林・うぐいすの森などには、
イタヤカエデ、ミズナラ、ハルニレ、エゾヤマザクラなどの30種以上の天然性広葉樹種で形成され、
幼壮木復層している。