第16話〜タンチョウ

 僅か5分の初渡来公式記録


●区分/珍鳥(まれ)  ●場所/(田原)
  突然の朗報だった。なんと静内にタンチョウが舞い降りたとい
う、信じられないような一報が入った。
  1月26日の午後9時すぎである。早速、明けて翌27日の午前
7時、現地へ車を飛ばす。入り交じる不安と期待。そして、午前
8時、ついにタンチョウのつがい発見。
  カメラに500 oレンズを付け、夢中でシャッターをきるが僅か
5分でどこかへ。その後、しばらく追うが、残念ながら、この一
瞬が最初で最後のタンチョウとの出会いとなった。しかし、これ
が静内で初めてのタンチョウの公式記録となった。
  結局、1月24〜27日の間、町内の田原周辺で観察されたが、
それ以降は確認されていない。
  タンチョウは国内では、根釧原野周辺だけに留鳥として生息、
繁殖する。今世紀始めには絶滅したといわれていたが、1924
年釧路湿原で10数羽の生存が確認された。
  1953年以降、冬季の人工給餌が盛んになるとともに、個体
数が徐々に増加し、今年は578 羽を数えるまでになっている。
全個体数は、旧ソ連、中国を合わせても、1,000 羽以下である。
特別天然記念物で特殊鳥類にも指定されている。

 
第17話〜シロカモメ

 冬空を羽ばたく姿 カモメの王の風格


●区分/冬鳥(10〜3月) ●場所/静内川河口
  自然豊かな静内川には、実に多くの種類と数のカモメ類が生
息する。
  越冬組で数が多いのはカモメ、オオセグロカモメ、セグロカモ
メ、ユリカモメの4種。これにワシカモメ、シロカモメの少数派が
続く。また、夏になると「ミャオ、ミャオ」と猫のような鳴き声のウ
ミネコもやって来る。
  シロカモメは、わが国に渡来するカモメの中で最も大きい。群
れで生活することが多いが、静内川では、ほとんど単独か数羽
で姿を見せ、そう数は多くはない。
  体が大きいのと全身白色のエレガントなフォルムなので、他
のカモメとはすぐ識別できる。全長約70p。ゆったりと、そして
堂々と冬空をはばたく様は、そのかっぷくの良さから、なんと
なくカモメの王者たる雰囲気がある。
  北極海沿岸、グリーンランド、アイスランドなどで繁殖し、冬に
なると南へ越冬のために渡る。
  日本には北海道、本州、四国、九州、小笠原諸島に約4〜
5000`の旅を経て、北極海沿岸などからはるばる渡ってくる
が、北日本に多く、本州以南では少ない。
 魚類、動物の死体、甲殻類、貝などを食する。
  

第18話〜ホオジロガモ
 
名前のとおり 頬に目立つ白い斑点


●区分/冬鳥(10〜3月) ●場所/静内川河口 
  ところで、カモ類には、他の野鳥にはない特徴があるのをご
存じだろうか。
  結論を先に言おう。それは、雄と雌とに大きな差別があるの
である。なに、差別。野鳥の世界にも差別がある…?。
  マガモ、コガモ、ハシビロガモ、オシドリ、ヒドリガモ、スズガ
モ等々。全てに共通しているのは、雄はいつもキラビヤカに着
飾っているのに、それに比べ、雌は実に質素な身なりであると
いうこと。
  あのオシドリの綺麗な銀杏羽を例えるまでもない。例外なく
カモの雄は器量が良いのに比較し、雌は気の毒なほどに見て
くれが劣る。 しかし、これには明快な理由がある。
  繁殖期、雌には数週間もの間、卵をふ化させる“抱卵”という
大切な仕事がある。自分の子孫を後世に残すという大役であ
る。その際に、派手なコスチュームでは天敵に狙われやすく、
危険が多い。
  つまり、いつの日か自分の身、いや子孫を守るために、派
手さを押さえ、地味な姿に進化したのである。なるほど、ご多
分にもれず、ホオジロガモニも、その名のとおり、雄には、頬に
良く目立つオシャレな白斑があるのである。


第19話〜ヒドリガモ

 
識別のポイントは短いくちばし


●区分/冬鳥(10〜3月) ●場所/静内川河口
  秋に北海道へ渡来するカモの中では、数が多い中形の淡水カ
モ。河川、湖沼、港湾などで生活する。
  静内川では数年前から少しづつ増えてはいるが、それほど数
が多くはなく、多い年でも数十羽程度である。 
  しかし、今シーズンはどういう訳か、ハクチョウは例年どおり渡
来したものの、マガモなど、カモ類はまったく数が減ってしまった。 
また、ウトナイ湖でも、今シーズン、ツグミ、レンジャク類、アトリ
など、冬鳥の渡来数が極端に少ないという。
 原因は、多くの要素が絡むだろうから、一つに断定はできない
だろうが、なんとなく不安になってしまう。
  ヒドリガモは、中形でずんぐりとし、首が短い。識別のポイント
は、短いくちばし。雄はブドウ色をしているので、識別しやすい
が、ご多分にもれず、雌は他のカモ同様、地味で識別しずらい。
  ヒドリガモは、アオノリなどの藻類を好んで食べるため、ノリの
養殖地で、よく被害が出る。
  また、内陸の湿地でも、歩きながら草の葉を引きちぎって食
べるが、これは、短いくちばしが、ノリや草などを食べるのに適
しているからである。


第20話〜オオコノハズク
 
眼光鋭い大きな目 研ぎ澄まされた爪



●区分/留鳥(周年)  ●場所/町内の山林
  広報係長をしていたある年の冬のこと。突然、女性から取材
依頼電話が鳴った。
  聞けば家の中に、フクロウが迷い込んで、居座っているという。
話しぶりからかなり興奮している様子がうかがえる。
  普通であれば、すぐにでもカメラ道具一式を揃え、喜び勇んで
飛び出すところであるが、どうもその勇気が出てこない。
  というのも、取材先は町内の某モーテルであった。小心者の
私には、モーテルに行くことに抵抗があり、それも、昼間堂々と
もなれば、気恥ずかしい気がした。 
 仕事優先か、私情優先か。でも、結論は仕事優先になった。
モーテルの室内に入るとクーラーの上に立ち、黙ってこちらを見
据えている。眼光鋭いオレンジ色の大きな目。とんがり、突き出
したくちばし、研ぎ澄まされ、大きく発達した爪。
 結局、何枚か写真を撮った後、部屋からオオコノハズクを野外
へと逃がしてやった。さて、肝心の主役の話に戻ろう。
 全長25p。暖期は、標高500 〜1000mの山林で生活し、木
の洞などで繁殖する。しかし、餌が少なくなる秋から冬にかけ
ては平地におり、人家近くの林などで生活する。夜行性のため、
日中あまり人目につくことはない。
  餌は、バッタなどの昆虫、が主食で、小鳥やネズミなどの小
さな哺乳類。カエル、ヘビなどの両樓類、爬虫類と完全な肉食
派。
 それにしても、木肌そっくりの体の色を見るにつけ、厳しい自
然界で生きている野鳥の知恵と、生命の神秘に感心させられる。
 奥が深いから野鳥たちとの付き合いはやめられない。
(冬鳥・完)