オオヒシクイ日高初渡来記録
  (
1997.03.12 〜 03.20)  
R99・J76データ



 3月17日、浦河町。日高路初登場、総勢約200羽からのオオヒシクイが大空を飛び回る様は、
 その鳴き声と共に圧巻であり、まるで夢を見ているような感動と嬉しさに包まれた



  粉雪舞い散る中オオヒシクイ独特の行動と魅力溢れるパフォーマンスは日高でも変わらず



●はじめに

○国指定天然記念物・オオヒシクイ(一部マガンを含む)の群れが、北海道日高地方
  (浦河町富里・姉茶)で初めて確認された。日により個体数差はあるが、確認期間
  は平成9年3月12日〜20日の9日間。確認数は、3月12日〜70羽、13日〜16日の 
  4日間は未確認であるが数百羽と推定され、17日〜 178羽、18日〜 148羽、19日
  〜30羽、20日〜13羽であった。
○群れの中にオオヒシクイの標識鳥2羽(R99・J76)が含まれていたため、その後、
  追跡調査を行い、予想される渡りコースを訪れた。目的は謎の多い生息を一つでも
  解明できればと思ったからで、日高という一つの点を次の点(生息地)とで結び、一
  本の線(ルート)を引きたかったからである。
  4月13日、4月19日〜20日の三日間、砂川市・袋地沼、美唄市・宮島沼、宗谷管内
  幌延町・パンケ沼、豊富町・兜沼などで観察を続けたが、他のオオヒシクイ標識鳥4
  羽は確認したものの雁を保護する会からR99・J76の観察データの提供を頂き、この
  2羽の国内越冬記録と考察をまとめる事ができたのは幸いであった。
○今回の観察は、3月17日、20日の二日間、スチール写真(ネガカラー、リバーサル)
  及び8oビデオに収録した。後日、またたま、リバーサルフィルムの中にR99が写っ
  ているのを発見した。
○今回の出来事をHBC(北海道放送)が、3月17日(3月16日取材)にニュース番組
  で放送したが、群れの中に大型のカナダガン2羽が含まれていた事が後日判明し、
  呉地会長に連絡、その後HBCともコンタクトをとり、調査して戴いたが、結局、ビデ
  オのマスターテープが見付からず、詳しいデータ判明には至らなかった。

●状  況
○正確な記録がないので詳細は不明ではあるが、少なくともここ数十年、マガンやヒ
  シクイが今回の渡来地である浦河町荻伏や富里地区、そして日高地方に渡来した
  記録はない。
○渡来数は、データ不足のため正確な数は分からないが、毎日、群れの数は変化し、
  一日の中でも時間により個体も入れ代わっている。この時期的、越冬期ではなく、
  渡り途中の中継地である事を考えると、それもうなづける。

●考 察
○この現象は、昨シーズン、北海道(静内町)で初めてマガンが越冬した事と無関係
  ではなく、地球温暖化による渡来地や越冬地等の北限に、変化が生じてきた例の一
  つと考えられる。(日本雁を保護する会・呉地正行会長)
○平成7年から連続し、ここ数年マガンが静内町で越冬しているが、マガンが昭和初
  期頃には、渡りの途中、春になると静内町の水田で落ち穂を食したり、日高の海岸
  を飛んだりするのが確認されている。
  今回の舞台となった浦河町富里地区は、明治42年、浦河町開拓の礎である赤心社
  が開墾した地であり、当時は辺り一面、谷地(湿地帯)であった事から、年代こそ推
  定できないが、恐らくその昔、オオヒシクイやマガンたちが、渡りの途中に立ち寄った
  馴染みの場所ではないか推察される。
○何故、浦河町富里に渡来したかという理由は、次の何点かが推測できる。
  @オオヒシクイの春の渡りコースとして、北海道上陸後は、十勝川河口部コースと
   サロベツ原野を経由してへ渡るコースが考えられるが、いずれにしても浦河町は、
   渡来コース上にある。
  A渡りのコースが、本州から襟裳岬を経由するならば、そのまま日高の海岸線を飛
   行したとして、富里地区は海岸部から継続し、最初で最も開けた水田地帯である
    事。
   水田地帯とは、採食が可能となり、平野部であるため見通しがきき、人間はとも
   かく、キタキツネ、犬などの天敵からも身を守りやすい地形であるなどの条件を満
   たす。
  Bヒシクイ(一部オオヒシクイ)は秋の渡りの途中、十勝川河口付近にかなりの個体
   が中継地として立ち寄るが、そこからは日高山脈で地形的に分断されているとは
   いえ、直線距離で100 q程度の至近距離である。
  C浦河町富里地区がその昔、谷地(湿地帯)であり、オオヒシクイにとっても馴染む
   環境下にある場所である。

●場  所
  北海道浦河郡浦河町字富里及び字姉茶[海岸線(太平洋)から北西に向け3q内
   陸部]

●採食地
  ○規模〜約 200m×1600m= 352,000u(35.2f)[A〜E地点]
  ○地目〜水田(70%)・牧草地(30%)

●期  間
  ○確認〜平成9年3月12日〜3月20日(9日間)
  ○初認〜3月12日・午前5時頃。近くに住む伊藤一雄(農業)さんが目撃。
  ○終認〜3月20日・午前11時30分、谷岡と小山が確認。

●確認数
  ○最大〜 178羽(オオヒシクイ〜 164羽・マガン〜 14 羽)
  ○最小〜 13羽(オオヒシクイ)
  ○観察データが不十分であり、毎日の正確な数は分からないが、オオヒシクイ等
   の群れの個体数は3月12日〜20日間、それぞれ毎日変化し、一日の中で時
   間により変化している。

●観  察
  ○3月12日(水)、5時〜18時頃(晴れ)
  ○場所〜浦河町富里(A地点)
  ○確認〜約70羽(オオヒシクイ)
  ○観察〜浦河町富里・伊藤一雄さんが、午前5時頃、家の中で突然、『グァー、
        グァー』と騒々しい野鳥の鳴き声を耳にした。よく見るとオオヒシクイ約
        70羽が水田に降り、一日中、採食。『夜間も水田にいたかもしれない』
        との伊藤さんの話であるが、水田をねぐらにする事の可能性は低いと
        思われる。 
●3月13日(木)、5時〜18時頃(晴れ)
  ○場所〜浦河町富里(A・B地点)
  ○確認〜数百羽[ 300羽?〜 400羽?/最低70羽](オオヒシクイ)
  ○観察〜オオヒシクイの数が増え、伊藤さんには、その数が 300〜 400羽にも見
       えたという。数を確認したが、70羽まで数えたところで余りにも数が多い
       ため、止めてしまったという。一日中、水田で採食。
●3月14日(金)、5時〜18時頃(雪・後晴れ)
 ○場所〜浦河町富里(A・B地点)
 ○確認〜数百羽(オオヒシクイ)
 ○観察〜一日中、水田で採食。
●3月15日(土)、5時〜18時頃(晴れ)
 ○場所〜浦河町富里(A・B地点)
 ○確認〜数百羽(オオヒシクイ)
 ○観察〜一日中、水田で採食。
●3月16日(日)、5時〜18時頃(雪)
 ○場所〜浦河町富里(A・B・C・D地点)
 ○確認〜数百羽(オオヒシクイ)、シジュウカラガン2羽?
 ○観察〜・一日中、水田、牧草地で採食。
       ・16日に撮影、17日放映のHBCニュース・ビデオを見ているうちに、群
        れの中にシジュウカラガンと思われる2羽が写っているのを後日発見。
        後に呉地会長がビデオを確認、大型のカナダガンである事が判明。
 ○意見〜浦河町荻伏・手塚さん
       手塚さんから電話が有り、『ヒシクイの群れが富里の水田に100 〜200 羽
       程度、数日前から姿を見せている』と電話がある。仕事の関係で、この日
       は観察出来なかったが、3月17日、休暇をとり観察、これを確認した。
●3月17日(月)、12時40分〜16時10分(晴れ)
 ○場所〜浦河町富里・姉茶(C・D・E・Fの各地点を往来)
 ○確認〜・178 羽(オオヒシクイ〜164 羽・マガン〜14羽)
       ・標識鳥(首)/2羽〜J76(赤に白ぬき)、R99(赤に白ぬき)
 ○観察〜・標識鳥2羽を発見、時間がかかったが識別する。
       ・辺り一面でオオヒシクイが採食し、移動のため次から次へと小飛行を繰
        り返す。『グァ、グァ』というオオヒシクイの声、飛ぶ際に発する『ビシ、ビ
        シ』という羽音など、さながらヒシクイの楽園という様は圧巻である。
       ・群れが、少しづつ移動しながら休みなく採食を繰り変えす。
       ・採食物は、水田での落ち穂・モミ藁、牧草地の牧草である(17日の観察
        では、米系統、牧草、それぞれ半数程度)。絶えず、小飛行を含めての
        移動をしながらの採食行動は、静内町でのマガンと同様である。
       ・一日中、水田、牧草地で採食。数は変わらず。
       ・マガンと比較し、体も一回り大きく嘴も黒い事などから、りりしい印象
        を受け、それにしても浦河町でこんな形でオオヒシクイと巡り合うとは、
        摩訶不思議也。
       12:40〜群れを発見。C・D・E・Fの各地点に分散し採食。大半はE地
            点の鉄塔よりD地点側に集結し、少しづつ移動しながら水田で
            採食を続ける。F地点(水田)近くに観察のため車を近付けると、
            一斉に群れはE地点の方へとそぞろ歩きを始める。
       13:30〜それまで鉄塔方向へと移動した群れが、D地点方向へと進路
            変更し、採食しながら移動を始める。晴天ではあるが、粉雪が
            少々、舞い落ちる。天気は良いが風は冷たい。群れは、活発に
            採食を続ける。
       14:00〜数十分に一回、5羽〜20羽といった小規模の群れ(ファミリー)
             が、C・D・Eの各地点を相互に移動をする。活発に採食。
       14:30〜E地点(水田)からD地点(牧草地)へと群れが、そぞろ歩きや
            小飛行で移動を開始する。活発に採食。
       15:00〜この時点で、E地点とD地点の群数は半数づつ。相変わらずに活
            発に採食。
       15:30〜観察以来、気になっていた首に標識を付けた個体の識別である
             が、行動の殆どの採食中は首を下げるため、識別出来ず。時折、
            首をげた時に標識を識別しようとするが、簡単にはいかず苦労する。
             要するに、標識のパターンが分からないので、チラチラと見える
             マークがアルファベットなのか数字なのかがよく判断出来ず。
       15:45〜プロミナーを駆使、標識鳥2羽の識別は初めての出会いでもあり
             困難を極めるが、繰り返し観察の結果、ついにD地点で識別ナン
             バーを判明。“R99”残りの一つが“J76”と断定する。(後に、こ
             の標識ナンバーがいかに重要な意味合いを持つのかが判明) 
       16:10〜都合が有り、今日の観察はこの時間が限界。せめて、ねぐらのコ
             ースを判明したかったのに実に残念。又、どこかで会おう。
●3月18日(火)、9時30分〜15時(快晴)
  ○場所〜浦河町富里・姉茶(C・D・Eの各地点を往来)
  ○確認〜 148羽(オオヒシクイ)
  ○意見〜午後10時頃、キタキツネの鳴き声を家の中で聞き、群れが無事かと心配す
        る。(伊藤一雄)
  ○観察〜9:30〜確認数/D地点・63羽、E地点・50羽、C地点・22羽と3か所に分
            散し、それぞれ採食活動。
       9:45〜全てがE地点に移動し採食。
       9:50〜全羽、舞い上がり上空を旋回。
       9:55〜ほとんどがC地点に集結。
       10:00〜C地点に白いRV車侵入し、E地点に群れが飛び移る。
       10:10〜約半数が牧草地へそぞろ歩き。
       10:20〜確認数/E地点53羽、D地点70羽、計 123羽。
       10:30〜確認数/E地点57羽、D地点91羽、計 148羽。
       10:35〜確認数/E地点56羽、D地点87羽、計 143羽。
       10:42〜全羽、舞い上がり上空を旋回。
       10:45〜D地点とE地点に着地。
       11:00〜少しづつE地点へと移動を開始。
       11:30〜全羽、E地点へと移動。カラー標識を付けた個体2羽を確認する。
             (R99、J76と思われる)
       13:48〜この時間まで、全羽がE地点で活発に採食(稲の切株を掘り起
            こして食べているのも有り)。他の地域から6羽が飛来する?。
       13:55〜全羽、D地点へ移動する。
       14:00〜確認数/ 137羽。ほとんどが採食。
       14:10〜確認数/ 137羽。4分の1が背眠、残りは採食。
       14:25〜ほぼ全羽がそぞろ歩き、F地点へと移動開始。
       14:35〜約半数がF地点の畦道へと移動。
       14:45〜カラー標識2羽以外の一羽で標識番号が“JX”“3X”かのどちら
             かは不明であるが、“X”という文字を判別する。カラーは脱色し
             た赤色、そして二羽の赤色首環よ短い。
       15:00〜群れが、F地点の畦道に一直線に並ぶ。
●3月19日(水)、9時〜15時(快晴)
 ○場所〜浦河町富里・姉茶(A・D地点)
 ○確認〜30羽(17羽〜オオヒシクイ、13羽〜マガン)
 ○意見〜昨夜はいる気配はなし。
 ○観察〜9:00〜オオヒシクイ17羽がD地点に着陸。直ぐに近くの小屋に肥料運搬
            用トラックが近付いたたため、野深方向へと飛び立つ。
       9:17〜車で探索中、酒井源市宅上空を17羽が南下しているのを発見す
            るも、そのまま見失う。
       9:20〜D地点で待機するも群れを発見できず。
       9:55〜南方向(元浦川河口)から、24羽のオオヒシクイと思われる群れ
            が、V字型編隊を組み上空を通過、北方向の日高山脈方向へと
            飛び去る。
       12:00〜D地点を見渡すが、群れを発見できず。
       13:34〜マガンファミリー13羽が、日高山脈方向から低空飛行で飛行、A
            地点に着地。
       13:45〜車をD地点へと移動、群れの個体がマガンのファミリーと確認す
             る。
       14:00〜採食後、静内方向(北東)へと飛び立つ。
       15:00〜E地点では確認できず。
●3月20日(木)、8時〜12時30分(快晴)
 ○場所〜浦河町富里(B地点)
 ○確認〜・13羽(オオヒシクイ)
 ○観察〜8:30〜B地点で13羽のオオヒシクイの群れを確認する。標識をつけた個
            体はおらず。
       11:00〜・9時からこの時間まで、少しづつ移動をしながらB地点で休ま
            ずに採食を続ける。
            ・観察と記録用のビデオを撮影のため、少しづつ道路に沿って車
            を近付ける。数百m近付いた程度でも、群れのほとんどが直ぐ、
            一斉に警戒のポーズをとり、非常に、警戒心が強い状態である
            事が分かる。
      11:30〜・道路沿いに 100m程度、車を近付けたところで、群れは上空へ
            と舞い上がる。飛行コースは、日高山脈方向へ向かい、そして、上
            空を2回旋回し、静内方向(北西)へと飛び去る。
           ・群れは、採食地上空を旋回しながらも、日高山脈方向→太平洋
            方向→日高山脈方向と、八の字を描きながら結局、苫小牧方向
            へ飛び去る。
           ・小山さんに、そのままこの地点での観察をお願いし、自分は元
            浦川沿いの荻伏、姉茶、野深の各地区を探索する。しかし、ど
            こにも群れを確認出来ず。沢山確認出来た時は、只々圧倒され、
            何をどのようにすれば良いのかを判断出来なかったが、何処に
            行っても姿が見えない今日は、惨めな胸中。
      12:30〜・一時間余り、探索するも結局、元浦川の各地区では、群れを発
            見できず。
           ・道道静内浦河線沿を浦河町、三石町、静内町と移動、観察をし
            ながら通過するも、静内町田原で越冬中のマガン幼鳥2羽を静
            内川で確認出来た以外は、マガン・ヒシクイの類いを発見する
            事は出来ずに残念。
        17:30〜A・B地点一体を探索するも、群れの確認は出来ず。暗くなり今
            日の観察を中止する。(小山)
  *平成9年3月21日以降、浦河町内でのオオヒシクイ、マガンの確認は出来ず。