「マガン北海道越冬3シーズン目記録」 

  【越冬期間/平成10年(1998)1月6日〜2月22日】




  幼鳥で1羽ながらも静内川で越冬したシジュウカラガン標識鳥−069



●はじめに
  今シーズンは、神森地区には不定期に渡来するのみで、越冬地としては不適当と判断したのか、継続する形
 では確認出来ずに残念なシーズンとなった。
   要因として考えられるのは、昨年の神森地区は天候不順が原因で、米の収穫がままならず、未熟米を12月末
 までそのまま放置したため、米殻が相当数に水田に落ちており、それを目当てに百羽単位でカラスが水田で採
 食行動し、マガンが渡来すると直ぐに群れに近付き、色々と邪魔をした事も一因と見られるが、確かな確証を得
 るに至っていない。 
  神森地区に代わる採食地については、マガンの土地への執着心が極めて強い特性から、静内町内或いは近
 隣の町の何処かで越冬している事と推察出来るが、それが何処かを確認来きなかった。
   しかし、興味深いのはマガンが静内町に渡来日と同じの1月6日、シジュウカラガン標識鳥(069)1羽が静
 内川に飛来し、3月24日までの78日間、北海道で初めて越冬した。このシジュウカラガンは、人工養殖した個体
 である事や諸々の事情などからマガンの群れ33羽と同一行動で静内町に渡来した可能性もあるが、その後の
 行動が別々であったため、その因果関係を立証する事は難しい。

●越冬期間・越冬数等
 *平成10年1月6日〜平成10年2月22日(48日間)/33羽(成鳥・幼鳥区分不明)
 *参考〜標識鳥(069)シジュウカラガン
  平成10年1月6日〜平成10年3月24日(78日間)/1羽

●考  察
 ○採食地〜・これまで、2シーズン越冬の拠点としてきた静内町神森地区では、今シーズン滅多に群れを確認
         する事が出来なく、今シーズンは他の場所に採食地を求めたためと思われる。理由は、カラスなと
         の妨害なども考えられるが、確証をするには至っていない。
        ・何処に新天地を求めたのか。目撃例から推察すると、静内町の隣町である新冠町方向からの飛
         行が幾つか目撃されており、可能性があるが唯一の河川である新冠川は、年末からの寒さで1
         月中は度々、結氷しており、この地でのねぐらでは無いと思われる。
        ・"野鳥""野生""自然"などの基本的な要素を考慮した時、数キロ或いは数十キロの移動範囲は、
         翼を広げれば簡単であり、この僅か一か月足らずであり、結論を出すには長い目で考察する必
         要がある。
 ○日周行動〜神森地区での目撃例は、1月16日、以降は早朝と夕方であり、特に午前中と午後3時以降に
          集中している。これらをまとめると、次のようになる。
         ・ねぐらの静内川(田原の中州)から夜明けと同時に飛び立ち、神森地区上空を通過し、そのま
          ま市街地方面まで飛行。そこから右方向へ飛行ルートを変更し、新冠町に向かい、水田か牧
          草地で採食する。
         ・午後3時以降になると、静内町方向へと向かい、時折、今までの採食地であつた神森地区に
          降りたり、上空を通過し、ねぐらである田原地区へと向かう。
 ○ねぐら〜  ・マガン越冬以来、唯一不確かな要素が"ねぐら"であり、これまで確認出来ていなかったが、3年
          目にして遂にねぐらを発見。今シーズン最大の収穫となる。
         ・場所は従来からの推測地であった静内川の中州(田原地区)で、観測データに基づく推定地区
           の数キロ以内であった。
 ○シジュウカラガン〜
         ・マガンの群れが、静内に出現したと同一日である1月6日に、静内川で初認されており、静内
          町に渡来する以前のルートは不明であるが、このマガンと共に静内町に渡って来た可能性が
          強いが、マガンとは越冬の同一行動をとってはおらず、オオハクチョウ8羽(成鳥2・幼鳥6羽)
          のファミリーを軸としたハクチョウやマガモ、オナガガモなどのカモ類と同一行動をしている。な
          ぜ、マガンや放鳥の際に一緒であったヒシクイではなく、オオハクチョウなのかについての理
          由は不明である。
         ・1月11日・15時50分、オオハクチョウ8羽と一緒に静内川から新冠町方向へ飛び立つのを確
          認している。確証はないが新冠町の何処かで、マガンの群れと同一行動をしている可能性も
          なくはない。
         ・1987(昭和62)年4月、浜頓別町クッチャロ湖にシジュウカラガン(標識鳥−007)1羽がコハ
          クチョウを仲間や親のように慕い、絶えず行動を共にしていた例が観察されたが、今回も同様
           のケースと考えられる。

●渡りルート
   静内町で今シーズン初認した1月6日の前日となる1月5日・15時頃に38羽を確認したのを始めとし、平成
 9年12月19日・38羽、12月23日・32羽、12月25日・30羽。それぞ れマガンの群れを静内町から約90q離れ
 た苫小牧市植苗地区(レントコーン畑、牧草地) で、日本野鳥の会ウトナイ湖サンクチュアリのレンジャーが
 マガンの群れを確認している。これだけの数が12月〜1月にかけウトナイ湖で確認されたのは初めてである。
 この事は、これまで静内町で越冬するマガンの渡りのルートが全くベールに包まれたままであったが、直前の
 渡来地としての一部として、同じ群れと考えられる可能性が非常に強く、今後、越冬ルートの一部として興味
 深い。

●観  察  例
●2月21日(土)、9時40分〜18時20分(晴れ)
 ○場所〜静内川中流上空・中州
 ○観察〜・今日は、これまでの数日間と違い、この冬一番の寒さが襲い、観測には非常に厳しい条件となっ
         たが、本格的なマガンねぐら調査。午前中、新冠町の高江、万世、明和地区を独自に縦断調査す
         るも、群れを発見出来ずに残念。
       ・午後から、自分は静内川右岸と中州のねぐらと考えられる地点を調査。応援メンバーは3人で左
         岸を調査、途中でメンバー3人を目撃しトランシーバーでコンタクトをとり、中州らしき場所の砂利
         原の調査を指示。日没のねぐら飛行コースを自分で決定。ここの場所とする事を決定。理由はね
         ぐらの有力地であり、仮に違っていてもここを通過するに違いないとの読みである。
       ・その後、サケ・マス捕獲場付近など、中州と思われる地点をことごとく単独で走破するが、糞など
        の証拠物を発見する事は出来ず。
       13:00〜ねぐらの条件である静内川の"中州候補地"を目名地区から田原地区までの間、単独で
            走破、調査する。結果、2年前とは地形が随分と変わり、一見、中州に見えても地続き
            の場所が大半を占め、中州と言えるのは僅かに一か所しかない事が判明する。しかも、
            その地もブルドーザーで人為的に周辺を整理された中州と言えども、天然の物とはほど
            遠い環境となっており、こんなにまで環境が劣化したのかと驚くばかり。
       16:50〜ねぐら調査のコース取りで、午後3時に応援メンバーと遭遇した地点で待機。
       17:28〜段々と薄暗くなるが群れを発見出来なく、自信を失いかけてきた矢先、見事に編隊を組
             んで飛行するマガンの群れ33羽が、思惑とおりの位置取りコース上を通過。それも真上
             をV字編隊で飛んで行き、声もでない程の感動。すかさず、『こちら谷岡、只今、静内川
             に沿い上空を通過中。只今、上空を通過中、通過中』とトランシーバーに連呼。
       17:31〜間もなく『こちらでもその姿を確認しました』とトランシーバーが答える。一体、何処まで
            行ったのか。
       17:35〜この頃から、自分のトランシーバーが電池切れのため、時折しか無線の声が聞こえずに
            難儀する。
       17:45〜『マガンが着陸しました』『停滞しています』などの声を傍受するが、途切れ途切れで正
            確な情報が伝わらずにイライラする。問題は、その場所が何処かという事であったが、
            それが分からない。
       17:55〜結局、ねぐらと思われる対岸となる静内川右岸の河原に到着。聞けばそれまでは違う
            方向を見ていたと言うが、私の『静内川を通過中』の無線を聞き、目線を静内川に移した
            途端、群れが現れ、上空を数回旋回した後、着陸したという。その地が、すぐ対岸という
            があいにく、夜の帳が下り、真っ暗闇で何も見えず。しかし、ようやくねぐらを確認出来き、
            思わず心の中で、万歳をする。今年は1月11日以来、今日まで群れとは合っておらず、
            長い日々であった。
            思えば、ねぐらは、おおよそこの辺りと設定してから3年の歳月と思惑が経ったものの、
            正直言って確定するまでは不安が無い事も無かった。
       18:20〜この間、諸々有りて、雑多、混同の3年間ながらも、推測の確定と今シーズンの決定的
            な越冬の事実の確認。そして、3年連続の越冬して既成事実の確証。等々、嬉しさが
            込み上げてくる。
       18:50〜ねぐら発見の吉報を呉地会長に電話する。『さすがですね』と労を労われ、この3年間の
            苦労が吹き飛ぶ。後は明日、この目でねぐらを見るのが楽しみだ。

   
          平成10年1月6日〜2月22日間の観察記録はありますが、 サイト上での掲載は、しておりません。