エゾシカ












エゾシカ(蝦鹿) 偶蹄目・シカ科
Lepus timidus ainu

 シカ類は主として北半球に広く分布しているが、日本にはその一種ニホンジカが生息している。
ニホンジカは更に幾つかの亜種に分けられ、屋久島のヤクシカ、本州のホンシュウジカ、四国・
九州のキュウシュウジカ、そして北海道には北方系のエゾシカが生息している。
 これら日本産のシカは北から南へ行くにつれて小型になり「ベルクマンの法則」をはっきりと表
している。最大は体重100kgを超すエゾシカで、ヤクシカの体重はその約半分。オスのエゾシ
カはロバか子馬ほどもあり、4つに枝分かれした大きな角を持ち、角は毎年春に根元(角座)か
ら落ち新しく生え変わる。この頃のシカは自分の落とした角や、その他の小動物(カエル等)を
食べてカルシウムを補うことが知られている。
 また、昔の北海道では角の落ち角を拾い集めて中国などへ輸出したが、角を拾うために毎年
春になると山野に火をつけ、そのために山火事が起こることもあったといわれる。

 シカは普通メスの親とその子が一緒に暮らす母系集団で、オスは別に暮らしていて、秋の繁
殖期に移動してメスの群れに入り、繁殖が終わるとまた元に戻る。
 エゾシカは冬期には雪の少ない地方へ移動して冬を越すために大きな群れになることがある。
(このような集団ではオス・メスが一緒になっていることがある)
 春と秋の二度、気変わりがあり、冬毛は暗い灰色になる。秋に発情し、翌春4〜5月にかけて
1〜2頭(2頭はまれ)の子を産む。森林と草地の境目に好んで生息し、主に夕方から早朝にか
け活動するが、いわゆる夜行性ではなく、クマ、カモシカなどの日本の大型哺乳類に多く見られ
る薄明薄暮型の行動パターンで、餌となる草を反芻(はんすう)胃に詰め込み、安全なところで
ゆっくり噛み戻しをする姿が見られる。

 他のほとんどの獣と同様に狩猟獣であり、毎年全道内で2,000頭以上も捕殺されているが、昔
は北海道全体に何十万頭も生息していたと推定され、アイヌの最も重要な食料だった。

 明治12年と36年の二度の大雪による大量死により、一時は絶滅したと思われていたが、何と
か持ち直し、近年はその心配はなくなったように思われるが、現在の乱獲は再び絶滅に追いや
る危険性がある。厳しい北海道の冬を僅かに笹や木の芽、皮などを食べて生き長らえているエ
ゾシカにとってこの狩猟は、再考する必要があると思われる。


 夏は高山の山頂付近にも時々姿を現し、冬は水の凍らない川や湿地で水草なども食べる。ピ
ュッと鋭い警戒音を発して尻の白い毛の部分(白鏡)を開き、飛び去ってゆく姿は大変美しい。
農業や林業の害獣とされているが、害獣化してゆく原因も被害の実情も正しく調査されずに害
獣として駆除されているのが現状である。

 アイヌ語名は一般にユク(食べ物または獲物の意)。アイヌにとっては最も大切な食料で、呼び
方は年齢によって変わる。